2022/7/2 読了 千葉雅也「現代思想入門」 (講談社現代新書)

2022/7/2  読了 千葉雅也「現代思想入門」 (講談社現代新書

f.2022/7/2
p.2022/3/20

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人生を変える哲学が、ここにある――。
現代思想の真髄をかつてない仕方で書き尽くした、「入門書」の決定版。

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デリダドゥルーズフーコーラカン、メイヤスー……
複雑な世界の現実を高解像度で捉え、人生をハックする、「現代思想」のパースペクティブ

□物事を二項対立で捉えない
□人生のリアリティはグレーゾーンに宿る
□秩序の強化を警戒し、逸脱する人間の多様性を泳がせておく
□権力は「下」からやってくる
□搾取されている自分の力を、より自律的に用いる方法を考える
□自分の成り立ちを偶然性へと開き、状況を必然的なものと捉えない
□人間は過剰なエネルギーの解放と有限化の二重のドラマを生きている
□無限の反省から抜け出し、個別の問題に有限に取り組む
□大きな謎に悩むよりも、人生の世俗的な深さを生きる

現代思想は、秩序を強化する動きへの警戒心を持ち、秩序からズレるもの、すなわち「差異」に注目する。それが今、人生の多様性を守るために必要だと思うのです。」 ――「はじめに 今なぜ現代思想か」より

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[本書の内容]
はじめに 今なぜ現代思想
第一章 デリダーー概念の脱構築
第二章 ドゥルーズーー存在の脱構築
第三章 フーコーーー社会の脱構築
ここまでのまとめ
第四章 現代思想の源流ーーニーチェフロイトマルクス
第五章 精神分析現代思想ーーラカンルジャンドル
第六章 現代思想のつくり方
第七章 ポスト・ポスト構造主義
付録 現代思想の読み方
おわりに 秩序と逸脱

2022年7月2日 朝日新聞デジタル 
(売れてる本)『現代思想入門』 千葉雅也〈著〉
■「未練込みでの決断」教える

 『構造と力』以来の快作、と言っていいのではないだろうか。デリダドゥルーズフーコーのあざやかな解説から始まり、最新の動向までツボを押さえて紹介してくれる本書は、かつて現代思想を「チャート式」に解説した浅田彰の本の後継の位置を確かなものとしつつあるように思う。実際、大学のキャンパスには、往時のように見せびらかしながら闊歩(かっぽ)はしなくとも、『現代思想入門』をカバンに忍ばせて歩く学生が確実にいるのだ。

 実際、この二つの書物はよく似ている。『構造と力』は、時代の感性にドライブされた速度に片足で乗りながらも、他方ではその背後にかつての政治の季節の記憶を残すものであった。『現代思想入門』は、インターネットによってあらゆるものが地ならしされた2010年代以降の速度にやはり片足で乗りつつ、他方ではその速度に抵抗し、立ち止まり、「未練込みでの決断」をすることを教えてくれるのであって、著者はそれを現代において可能な政治的抵抗とも結びつけて論じている。

 もちろん、違いもある。『構造と力』が現代思想の地図を鋭利に腑分(ふわ)けする解剖学者の仕事であったとすれば、『現代思想入門』はむしろ研究室の頼れる先輩のそれであって、ときには細かな背景や前提知識を、ときにはざっくりと読めるようになるためのコツを後輩に教えてくれる。要するに、『現代思想入門』は面倒見がいいのである。

 『構造と力』の刊行からおよそ40年が経過し、現代思想は見せびらかすようなものではなくなった。それは良い変化だろうと思う。デリダドゥルーズフーコー、さらにはその後の展開について、地に足をつけた研究ができる土壌も整ってきた。かといって、現代思想が退屈な古典になったわけではない。本書がヒットしたことは、政治とも切り結ぶ鋭さをもったアクチュアルな理論がいまだ存在しており、必要とされていることを教えてくれるのである。

 松本卓也精神科医

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 講談社現代新書・990円=4刷8万部。電子版1万部。3月刊。「わかりやすい」のほか「励まされた」という声も多い。