2021/5/8 読了 京極夏彦「ヒトでなし: 金剛界の章」 (新潮文庫)
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「お前な、慎吾。人を救うのを仕事にしねえか? 宗教だよ」
仕事、家、妻子。全てを失った――
人間をやめた男が救世主に!?
罪、欲望、救済の螺旋を描く、超・宗教エンタテインメント!
第一話 堕第二話 貧
第三話 妄
第四話 獰
第五話 奔
第六話 覚
第七話 毒
第八話 瘡
第九話 罰
第十話 鬼
第十一話 還
「死にたいん──です」「なら死ねよ」。娘を亡くし、妻だった人に去られ、十五年勤めた会社を解雇された。全てを失い彷徨していた尾田慎吾は、雨の夜、自殺を図る見知らぬ女にそう告げた。同日、旧友荻野と再会する。彼は、情、欲望、執着を持たぬ慎吾を見込んで、宗教を仕事にしないかと持ちかける。謎めいた荒れ寺に集いし破綻者たち。仏も神も人間ではない。超・宗教エンタテインメント。
「お前な、慎吾。人を救うのを仕事にしねえか?」
罪と救済の螺旋を描く、超・宗教エンタテインメント
俺は、ヒトでなしなんだそうだ。
妻が言っていたのだから間違いあるまい。いや、あの人はもう妻ではない。京極夏彦さんの長篇『ヒトでなし―金剛界の章―』の冒頭です。ある日、無残なかたちで娘を亡くした尾田慎吾。その出来事を契機として、妻だった女性に去られ、十五年勤めていた会社からもあっさりと捨てられました。
すべてを失い、雨の夜に彷徨していた慎吾は、旧友・荻野と再会。荻野は高校時代の友人でしたが、その後、疎遠に。IT関連で大成功、年収数億円の身との噂は聞いていました。ただ、彼の口が吐いたのは、「首吊ろうかってな具合だよ」。荻野常雄もまた大きな借金を抱えて孤立し、明日の見えない状況に陥っていたのです。
絶体絶命のふたり。どん底の中で、荻野は思いつきます。情、欲望、執着を生来持たぬ慎吾を見込んで、宗教を仕事にしないか、と持ちかけたのです。
彼らに吸い寄せられるように集まる、さまざまなタイプの破綻者たち。その中には、決して関わりを持ちたくないような者さえ含まれています――。
圧倒的なエンタテインメントにして、人間の拠って立つ場所を揺さぶる、この長篇。
尾田慎吾の痛烈な一言をいつしか心待ちにしているあなたに気づくでしょう。